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(SAR画像解析をする前に)SARってなんぞ?

まず始めに

久しぶりの更新になってしまいました。今回の風邪は長引くのが特徴らしく、珍しく12月中旬に二週間近く風邪を引いて、また年始に五日間くらい風邪を引くハプニングにあいました。皆さん風邪には気をつけてください。

現在、趣味の範囲ですがTellusのGPU高火力サーバの環境を使って衛星データなどの解析をしております。

私はSAR画像に興味があるので、上記の環境を使って取得したSAR画像を解析して何らかの発見ができればと思っているのですが、SAR画像ってあまり使われるイメージがないので、Google Earthでよくみるような画像とどのような違いがあるのか分からない方も多いのではないでしょうか。

そこで、今回はSAR画像の解析などをブログで公開する前に、一旦ここでSAR画像についてお話できればと思います。

SARって何?

まず、SARは合成開口レーダ(Synthetic Aperture Radar)の略称で、環境変化などを地球規模で観測することができるリモートセンシング技術の一つです。最大の特徴は、何と言っても昼夜天候を問わず観測することが可能という点です。通常、光学センサで観測するライダは、雲がある場合は貫通することができず観測することができないですが、SARはマイクロ波を使って観測しており、マイクロ波は雲も貫通するので観測が可能です。つまり、災害時に雲で覆われていたり、火事で煙が覆っていたとしても観測できるなどの利点があります。また、乾いた土であるなどの条件はありますが、土の中を潜って観測することができるので、土壌や建物内部の情報も観測することができます

さらに、SAR画像の観測に用いられているマイクロ波は、波長によってPバンド、Lバンド、Cバンド、Xバンドに分類されます。実は、これらの波長によって地表へ反射する特性が大きく異なります。SARは地表に向けて電波を送信し、対象物から反射された電波を受信していますが、この対象物が例えば表面が荒いかどうかなどの特性によって、短い波長であれば表面の凸凹に影響され、波長が長いと影響されない特徴があります。一番分かりやすい例は対象物が森林の場合で、波長が短いと樹冠から反射しますが、波長が長くなればなるほど木の幹の中で多重散乱したり、木の根元から反射したりします。実際、自分自身もこの反射特性の違いを利用して、森林に覆われた川などを可視化した経験があります。

主に使用されているバンドは国ごとに異なっていて、例えばカナダなどのように森林が多い地域では、森林の監視などの用途に用いることからCバンドが利用される場合が多いようです。日本では、Lバンドが主に使用されています。代表的なのはPALSAR2で、衛星データのオープンデータが公開されているプラットフォームであるTellusにもPALSAR2のデータが公開されています。

日本のSAR技術は実はバカにならなくて、一般的にSARというとPOLSAR(Polarimetric SAR)を意味していて、偏波情報を利用して観測を行なっているのですが、日本のPALSAR2の前身でALOS「だいち」に搭載されたPALSARは、世界で初めてフルポラリメトリック観測(4つの偏波情報全てを利用した観測手法)を可能にしています

一方で、SAR画像のデメリットとしては、一般的なデジカメなどで利用されている光学センサなどとは異なり、複数のバンドを組み合わせて馴染みのあるRGB画像にすることはできず、基本的に白黒画像です。もちろん、フルポラリメトリなどと言って、全ての偏波情報を組み合わせてカラー画像にするやり方はあるのですが、各色の情報は「色」ではなく「散乱特性」という解釈をする必要があるので、あまりSAR画像に馴染みのないひとは解釈に苦労します。また、このあと実際の画像でお見せしますが、画像に白い斑点のようなものができてしまい、これらのノイズを取り除く必要もあります。さらに、山岳地帯の倒れこみが激しかったり山並みが重なって平らに見えたりなどの欠点があります。

実際のSAR画像

SAR画像って言ってもピンとこないと思うので、先日取り出したSAR画像をお見せしたいと思います(可視化方法については後日ブログで発進させて頂きます)。

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どこらへんか調べてないのですが、おそらく湖とその周辺の山だと思います笑 この画像、よくみると白いモヤモヤみたいなのが見えるかなと思います。これが先ほど説明したSAR画像特有の白い斑点で、「スペックル」と言います。具体的には、画像内における各ピクセルの反射波(明るさ)に関連した統計的な変動あるいは不確定要素のことを意味します。SAR画像で解析を行う前には、ほぼ必ずと言っていいほどこのスペックルの前処理をします。よくやるのは、分解能が犠牲になりますがマルチルック(隣接するピクセルを平均化してラジオメトリック分解能を小さくする)や乗法モデルのスペックルを仮定して局所統計量を利用したスペックルフィルタリングによるアプローチがあります。他にも、SAR画像の前処理方法としては、レーダ装置が持つ偏波特性の誤差(アンテナの不完全性や宇宙環境・打ち上げの時の外的な要因)を抑えるポラリメトリック補正や散乱値(散乱特性:送信パルスと受信パルスの電力比率の変動を最小限にする処理)の変動を最小限にするラジオメトリック補正などがあります。

SARの生データってどんな感じ?

一般的なSARの生データ(PALSAR2のL1.1プロダクト)は、スラントレンジ上(センサとターゲットを結んだ視線方向)に等間隔に配置された複素数データ(SLC: Single-Look Complex)の情報が含まれていて、各ピクセルに実数(振幅)と虚数(位相)の情報が格納されている珍しい画像です。可視化する時は強度に変換する場合が多いです。

複素数データって何に使えるの?

SARのデータの性質上、一番の特徴は複素数情報があることがです。特に、位相情報が非常に有用で、例えばこの情報を利用したものにインターフェロメトリ解析があります。インターフォロメトリにもいくつか種類がありますが、一番有名なのは差分干渉SARで、これは二つのSARデータとDEMと言われる数値標高モデルを用いて、地震などによる地盤変動などの観測ができます。また、これらの位相情報を用いた位置合わせ方法もあり、二つの画像をフーリエ変換して、位相情報に変換して最も相関係数の高いピクセルの座標から二つの画像の平行移動量、さらに対数や極座標によって拡大縮小・回転角度も算出することができます。また、SARにも様々な分解方があり、偏波特性から散乱特性ごとに寄与している成分を抽出して欲しい情報を可視化する方法もあります。確か、手法によっては橋の検出なども可能だったかと思います。

SARでよく使われるデータフォーマット

SAR画像でよく使用されるフォーマットはGeoTiffとCEOSです。GeoTiffはある程度推測ができると思うので割愛しますが、ほとんどのSAR画像で複素数情報が入っている場合に関してはCEOSフォーマットになっていると思います。

CEOSフォーマットは特殊なフォーマットなので衛星ごとに仕様が異なります(なので、衛星のプロダクトの説明書を読み込む必要があります汗)。説明は以下のサイトがわかりやすいので割愛しますが、基本はデータの詳細であるイメージディスクリプタに続いて画像情報、プレフィックスなどの情報が画像の列(ライン)ごとに並んでおり、実際の画像情報を取り出す際にはファイルの中の画像情報だけを正確に取りだす必要があります。別にpythonでもC++でもMatlabでも情報は取り出せますが、バイナリデータの処理に慣れてないと大分苦労すると思います。

rs.aoyaman.com

https://www.opengis.co.jp/htm/gamma/htm/gamma_mail_00012.htm

まとめ

今回は、SAR画像解析をする前段階としてSARについて利点や特徴などを説明しました。ここの説明だけだと偏波などの部分は分からないと思うので、もし良かったら以下のURLを参考にしていただければと思います。次回は、いよいよTellusのAPIから取得したSARイメージファイルを可視化したいと思います。よろしくお願い致します。

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